現代のビジネス環境において、日々の職務に取り組む中で、「このキャリアパスが本当に自分に合っているのか」「真に追求したいことは何か」と自問する瞬間は少なくありません。
業務の多忙さや組織の期待の中で、自己の内なる声に耳を傾ける機会は限られがちです。
しかし、こうした内省の瞬間は、自己実現に向けた新たなキャリアの第一歩を踏み出す契機となり得ます。
この記事では、「真にやりたいこと」を明確化するための実践的かつ体系的な3つのステップをご紹介します。
この手法は、特別な準備や専門知識を必要とせず、日常の業務と並行して取り組めるよう設計されています。
皆様が自己のキャリアを主体的に設計するための具体的な一歩を踏み出せることを願います。
目次
「やりたいこと」の明確化が困難な背景
まず、なぜ多くの会社員が「やりたいこと」を明確化するのに苦労するのか、その背景を考察します。
- 社会的・組織的期待の影響
- 多忙による内省の機会不足
- 志向の曖昧さ
社会的・組織的期待の影響
安定した職務や昇進といった社会通念、または家族や上司からの期待が、個人の本来的な志向を見えにくくすることがあります。
これらの外部要因は、無意識のうちに個人の意思決定に影響を及ぼします。
多忙による内省の機会不足
会議、締め切り、残業といった業務の多忙さは、自己と向き合う時間を奪います。
「やりたいこと」を熟考する精神的・時間的余裕が不足しがちです。
志向の曖昧さ
「より充実したキャリアを築きたい」という願望はあっても、それが具体的にどのような職務やライフスタイルを指すのか、イメージが曖昧である場合が多く、行動に結びつきにくい状況が生じます。
これから紹介する3ステップは、こうした課題を克服し、自己の志向を体系的に明確化するための手法です。
この手法では、「やりたいこと」を直接考えるのではなく、「やりたくないこと」を起点にすることで、潜在的な願望を浮かび上がらせることができます。
この逆説的なアプローチは、自己理解を深める上で効果的です。
キャリア志向を明確化する3つのステップ
以下に、自己の「やりたいこと」を明確化するための3ステップを詳細に解説します。
各ステップは、週末の1~2時間程度で実施可能な設計となっており、忙しい会社員の方にも実践しやすい内容です。
- 望まない職務・状況を列挙する
- 社会的期待に基づく項目を除外する
- 望まないことを反転させ、志向に変換する
ステップ1:望まない職務・状況を列挙する
【目的】
「やりたいこと」を直接特定するのは困難ですが、「やりたくないこと」は比較的容易に想起できます。
まずは、望まない職務や状況を列挙することで、自身の価値観や優先順位を明確化し、自己理解の基盤を築きます。
【実施方法】
- 筆記用具と紙を用意します。
- 「会社員として、または人生全般で望まないこと」を、10~15分以内に可能な限り列挙します。
- 職務に関することだけでなく、「毎朝の長時間通勤」「休日の業務連絡」など、ライフスタイル全般も含め、具体的かつ詳細に記述しましょう。
- たとえば、「長時間の残業」ではなく、「創造性を発揮できない長時間のデータ入力業務」など、状況や感情を明確に記載します。
【記載例】
- 単調なデータ入力業務
- 上司の指示に従うのみの職務
- 毎朝7時出勤の生活
- 休日も業務連絡に対応する環境
- 自身の提案が反映されない職場
【留意点】
この段階では、率直かつ正直に記述することが重要です。
職場の具体的な場面(例:特定の会議、業務フロー)を想起しながら記述すると、望まない状況がより明確になります。
他者に公開するものではないため、どんな些細な不満も遠慮なく記載してください。
リストが豊富であるほど、後のステップでの洞察が深まります。
ステップ2:社会的期待に基づく項目を除外する
【目的】
ステップ1のリストには、「望まないが、実施すべきと考える」項目が含まれる場合があります。
これらは、社会や他者の期待に基づくものが多く、自身の本来的な志向とは異なる可能性があります。
本ステップでは、こうした「べき思考」を除外し、真の願望に焦点を絞ります。
【実施方法】
- ステップ1のリストを再確認します。
- 各項目に対し、「これは本心から望まないことか、それとも『すべき』と思うから嫌だと感じているのか」を自問します。
- 「すべき」と考える項目を特定し、リストから除外(または別途マーク)します。
- 除外する際、「なぜすべきと思うのか」をメモすることで、外部要因への気づきが深まります。
【記載例】
- 単調なデータ入力業務 → 本心から望まないため残す
- 上司の指示に従うのみの職務 → 本心から望まないため残す
- 毎朝7時出勤の生活 → 本心から望まないため残す
- 休日も業務連絡に対応する環境 → 本心から望まないため残す
- 自身の提案が反映されない職場 → 「大企業での安定を優先すべき」との考えに基づくため除外
【留意点】
「べき思考」の特定には、自己の価値観と外部要因を区別する意識が求められます。
たとえば、「昇進すべき」「安定した職務を続けるべき」といった考えは、自身の志向ではなく、他者の影響である可能性があります。
昇進や安定を優先する意識は、自然なものですが、これらが本心と一致するか慎重に検討してください。
不要な項目を除外することで、真の志向が明確になります。
ステップ3:望まないことを反転させ、志向に変換する
【目的】
望まないことをポジティブな志向に変換することで、潜在的な願望や理想を明確化します。
このプロセスは、ネガティブな感情を具体的なキャリア目標やライフスタイルの希望に転換する重要なステップです。
【実施方法】
- ステップ2で残ったリストを確認します。
- 各項目を「逆にするとどうなるか」を考え、ポジティブな「やりたいこと」に変換します。
- 変換した志向を、具体的な職務や行動に落とし込みます。
- 特に心を動かされる項目に印をつけ、優先順位を明確化します。
【記載例】
- 単調なデータ入力業務
→ 創造性を発揮できる職務に従事したい
→ 具体例:マーケティングや企画関連の職務に挑戦する
- 上司の指示に従うのみの職務
→ 主体的にプロジェクトを推進できる職務に従事したい
→ 具体例:プロジェクトリーダーや独立事業への挑戦
- 毎朝7時出勤の生活
→ 柔軟な勤務体系で働きたい
→ 具体例:リモートワークや時差出勤が可能な職場への移行
- 休日も業務連絡に対応する環境
→ 仕事と私生活のバランスが取れた環境で働きたい
→ 具体例:ワークライフバランスを重視する企業への転職
【留意点】
変換時には、背後にある価値観(例:自由、創造性、貢献)を意識すると、より核心的な志向が明確になります。
たとえば、「指示に従うのが嫌」は、「主体性」や「自律」を重視する価値観の表れです。
変換した志向が現在の職場で実現可能か、または転職や副業を通じて追求すべきかを検討してください。
大きな目標は、小さな行動(例:社内異動の申請、副業の開始)に分解すると実行しやすくなります。
ステップ完了後の行動計画
3ステップを終えると、自己の志向を反映したリストが完成します。
しかし、明確化された志向を行動に結びつけることが、キャリア変革の鍵です。
以下に次の段階に進むための具体的な行動計画を提案します。
- 小規模な実践の開始
- 情報収集とネットワーク構築
- 実践後の振り返りと調整
- 定期的な見直し
1. 小規模な実践の開始
大きなキャリア変更(例:転職、起業)はリスクを伴うため、まずは小規模な行動から始めます。
たとえば...
- 企画職への志向 → 社内プロジェクトでの企画提案を試みる
- 柔軟な勤務体系への志向 → 上司にリモートワークの可能性を相談する
- 主体的な職務への志向 → チーム内でのリーダーシップ機会を求める
2. 情報収集とネットワーク構築
志向の実現可能性を探るため、関連分野の情報収集や人的ネットワークの構築を行います。
- 社内:志向に合致する部署の同僚や上司に相談する。
- 社外:業界イベントや専門SNS(例:LinkedIn)で関係者と交流する。
- オンライン:関連分野のブログ、ウェビナー、オンライン講座を活用する。
3. 実践後の振り返りと調整
志向に基づく行動を試みた後、結果を振り返ります。
「その行動は満足感をもたらしたか」「新たな課題は何か」を評価し、次の行動を調整します。
たとえば、副業でライティングを試み、「クライアント対応が課題」と判明した場合、コミュニケーションスキルの向上を次の目標に設定します。
4. 定期的な見直し
キャリア志向は、経験や環境の変化に応じて進化します。
3~6ヶ月ごとに本ステップを繰り返し、リストを更新することで、最新の自己理解に基づくキャリア設計が可能です。
会社員向けの実践上の留意点
会社員としての立場には、特有の強み(安定性、組織リソース)と制約(時間的余裕の不足、組織の期待)が存在します。
以下は、本手法を効果的に進めるための留意点です。
- 組織リソースの活用
- 副業・余暇の戦略的利用
- ワークライフバランスの考慮
組織リソースの活用
社内研修、異動制度、プロジェクト参加の機会を活用し、志向に近づく道を探ります。
たとえば、マーケティング志向の場合、社内のマーケティング関連プロジェクトへの参加を提案する。
副業・余暇の戦略的利用
会社員の強みは、業務外の時間で志向を試せる点です。
副業や趣味を通じて、小規模な実践を積み重ねることで、リスクを抑えつつ経験を蓄積できます。
ワークライフバランスの考慮
志向が業務外(例:家族との時間、自己啓発)にある場合、業務効率化や時短勤務の交渉を通じて、私生活の充実を図ります。
つまずきやすいポイントとその対応策
- リストに記載する内容が思いつかない場合
日常の小さな不満(例:特定の業務、時間帯)から始め、徐々に深掘りしてください。
時間を区切って自由記述を行うと、思考が整理されます。
- 志向が現実的でない場合
大きな志向は、小さな行動に分解します。
たとえば、起業志向の場合、まずは副業や業界研究から始め、段階的なアプローチで実現可能性を高めます。
- 多忙で時間が不足する場合
各ステップを10~15分で実施可能です。
通勤時間や休憩時間を活用し、メモ形式で進めることも有効です。
さいごに
会社員は、安定した基盤と豊富な経験を有しながら、自己実現に向けた新たな可能性を模索しています。
本記事で紹介した3ステップは、忙しい日常の中で自己の志向を明確化し、主体的なキャリア設計を始めるための実践的ツールです。
静かな環境で筆記用具を手に取り、自己と対話する時間を確保してみませんか。
望まないことを列挙し、それを志向に変換するプロセスは、自己理解を深めるキッカケになれば、幸いです。
皆様が本ガイドを通じて、自分らしいキャリアの第一歩を踏み出されることを心より願っています。